大江戸ロミオ&ジュリエット
「南北の奉行所のじじぃたちの、気の遠くなるほど長っげぇ祝辞も高砂の謡も、気になんねぇほど浮かれてたな……顔に出すわけにはいかねぇけどよ。おめぇの兄貴がずーっと睨んでやがるしよ」
多聞の腕の中で、志鶴は見上げた。
その目は驚きのために見開かれていた。
「なのに、その晩はさ、せっかくのおめぇとの初夜なのによ……怖がるおめぇに嫌われたくなくて、格好つけて部屋に戻したのさ」
多聞はくくっ、と笑った。
「南町の奉行所ではよ、『北町小町』を娶ったってんで、妬っかまれて大変だったんだぜ。
『北町小町』と熱い夜を過ごさせてたまるか、ってんで、上役からも先々まで宿直を詰め込まれてよ。『北町』に嫌われんのは百も承知の二百も合点だけどよ……『南町』の連中からの仕打ちにゃぁ、少々参ったな」
多聞は少し寂しそうな顔をした。
「……なのに、肝心要のおめぇはよ、おれの世話どころか顔すらも見せに来やしねぇ。
やっぱり『南町』の男に嫁入ったことが気に喰わねぇんだな、と思って苛立って、おめぇに八つ当たりしちまったこともあったな」
「ち…違いまするっ……わたくしは、旦那さまのお世話をしとうござった」
必死の眼差しで訴える志鶴の背を、多聞はぽんぽんっと叩いた。
「わかってっよ……うちのおっ母さんが、許さなかったっつうことはさ」
多聞の目が陰った。母の富士には、志鶴の顔が梅ノ香に映ったためだ。
だが、結局は、若かったおのれの分別のなさが所以のことである。
志鶴は食べるものも十分に与えられず、すっかり痩せ細ってしまった。
「……おめぇには、苦労かけたな」
腹に子を宿した志鶴は、流石に目方を戻し始めたみたいだが。