大江戸ロミオ&ジュリエット
「……先達ては、わしとしたことが、つい云い過ぎてしもうた。おぬしが意に沿わず『南町』に嫁入ったことは心得ておるつもりだったのにな」
多聞は志鶴の顎にやっていた手で、今度は頬をすっぽりと包んだ。
「されども……わしらはもう夫婦じゃ。たとえ、少しずつでも構わぬゆえ、心を開いてみてはくれぬか」
多聞はよく響く低い声で、やさしく告げた。
志鶴の頬がますます朱を増した。
まるで火に炙られたかのようだ。
……旦那さま、誤解にてござりまする。
志鶴はそう云いたくて、唇を開こうとした。
だが、てっきり「引導」を渡されるとばかり思うて覚悟して参ったのに、多聞の思いがけぬやさしい言葉を聞いたため、驚きのあまりなかなか声にならない。
この屋敷で受けている、無体な仕打ちも吹き飛ぶくらいのうれしさが、心の底から湧き上がってきたというのに。
なのに。
ぷっくりとしたそのくちびるは、なにも云えず、ただぷるぷると震えるばかりであった。