イジワル御曹司様に今宵も愛でられています

「藤沢さんのその気持ち、とても大切なものだと思いますよ」


 そう言って、先生はテーブルに残っていた一枝のカスミソウを手に取った。

 誰か生徒さんが花の形を整えるために、はさみで切って除いたものだ。


「私たちは花に手を入れることによって、その花の一番美しい時を作り出しているわけじゃないのよ。私たちがいけばなを通して見つめるのは、命のうつろい、その花の一生です。蕾が花開きやがて萎れるまで、作品を通して命の尊さを学び自然を敬う心を持つ。それがいけばなというものなの」


 大切なのは上手に、綺麗に花をいけることだけじゃない。花に触れることによって、命を見つめ、自然に思いを馳せる。それがいけばなというものなんだ。

 智明さんはいつも、こんな厳かな気持ちで作品に向き合っていたんだな。

 智明さんが見せる真剣な表情がふっと脳裏に浮かんだ。


「確かに私たちはお花を犠牲にして作品を作っています。そのことを忘れてはいけません。でもそれ以上に大切なのは、感謝の心ではないかしら」

 そう言って、先生は持っていたカスミソウをペーパーで包み、私に手渡した。

「おうちでも飾ってあげてね。命を全うする姿を見ていてあげて」

「……はい。ありがとうございます」

 もらったカスミソウを胸に抱く。教室へ来た時よりも、花への愛着がさらに増したような気がした。

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