イジワル御曹司様に今宵も愛でられています

 先生にお礼を言って教室を出た私は、智明さんの今後のスケジュールを確認するために総務所に向かった。

 智明さんが携わった映画の公開が迫り、PRの仕事が新たにいくつか入ったのだ。

 事前に葛城さんに断ってPCを立ち上げ、専用のフォルダを開く。一か月分のスケジュールをコピーして総務所を出ようとした時だった。


「申し訳ありませんが、お断りします」

 総務所のさらに奥にある役員室の方から、声がする。


 あれっ、この声は智明さん? とすると一緒にいるのは?

 そう深くも考えずに歩を進め、役員室のドアの前に立つ。

「おまえはなんでそう私の言うことをきかんのだ!」

 ドン! と机を叩く音が聞こえ、思わずビクッと体を揺らした。


 こちらの低く響く声は、おそらく智明さんのおじいさま、元お家元の幽玄さまだろう。

 手元のスケジュールを見ると、今日は午前中のうちに二人一緒でとある会合に出かけることになっている。その帰りに本部に立ち寄ったんだろう。

 香月流内部の込み入った話かもしれない。立ち聞きするのもどうかと思い、立ち去ろうとしたその時だった。


「いいかげん身を固めろ。容姿も家柄も申し分ない、良縁じゃないか。見合いの何がいかんのだ」


 思いがけない内容に足が止まった。

 ……えっ、智明さんお見合いの話が来てるの?

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