イジワル御曹司様に今宵も愛でられています

「アルバイトなのに、葛城の代わりに出張までさせて悪かったね。この十日間は、圭吾さんのところにも、あんまり行けなかったんだろう?」

 葛城さんが不在の間は私から進んで残業をさせてもらったため、確かに父のところへ行けない日も何度かあった。


「大丈夫ですよ。毎日は無理でも、二、三日に一度は行けましたし、父も安定してますし」

「……そっか」


 私の返事に、智明さんが複雑そうな表情を見せる。

 たぶん、『安定している』という言葉に反応したのだと思う。

 そう言えば聞こえはいいが、『安定』=『改善も前進もしていない』ということだからだ。


 父が倒れてからもう二か月、まだ父は目覚めない。

 どんなに気丈に振る舞っていても、終わりの見えない日々に、気が塞いでしまいそうになるのも確か。

 それはきっと、智明さんも同じだと思う。

< 129 / 178 >

この作品をシェア

pagetop