イジワル御曹司様に今宵も愛でられています
「アルバイトなのに、葛城の代わりに出張までさせて悪かったね。この十日間は、圭吾さんのところにも、あんまり行けなかったんだろう?」
葛城さんが不在の間は私から進んで残業をさせてもらったため、確かに父のところへ行けない日も何度かあった。
「大丈夫ですよ。毎日は無理でも、二、三日に一度は行けましたし、父も安定してますし」
「……そっか」
私の返事に、智明さんが複雑そうな表情を見せる。
たぶん、『安定している』という言葉に反応したのだと思う。
そう言えば聞こえはいいが、『安定』=『改善も前進もしていない』ということだからだ。
父が倒れてからもう二か月、まだ父は目覚めない。
どんなに気丈に振る舞っていても、終わりの見えない日々に、気が塞いでしまいそうになるのも確か。
それはきっと、智明さんも同じだと思う。