イジワル御曹司様に今宵も愛でられています
智明さんにとって、父親と同様の存在であった私の父。
忙しくてなかなかお見舞いに行けないことにも、彼はたぶん引け目を感じている。
でも、こうして智明さんと一緒に全国色々なところを回り、たくさんの人と出会い、いくつもの素晴らしい作品に触れる日々は、想像以上の刺激に満ちていて、束の間つらいことを忘れさせてくれた。
この十日間はとても充実していたという実感がある。
智明さんも、同じように感じてくれていたらいいな、と思うのだけれど……。
「お家元、氷見さんの件はその後どうですか?」
「うーん、そうだね。なかなか諦めないよね、あの人も」
まだ半分ほど残っているコーヒーのカップを置き、智明さんはため息を吐いた。
余裕のあった前回と違い、どうやら今回は本当に参っているらしい。
地方での舞台挨拶の際は、泊りの日もあったから私もなんとなく気づいていた。
智明さん曰く『肉食系』の氷見さんは、どうやら宿泊先のホテルで周囲の目を忍び、智明さんの部屋をたびたび訪れているらしいのだ。