イジワル御曹司様に今宵も愛でられています
「こちらが本日のお部屋になります」

「……わぁ、素敵!!」


 女将さんが案内してくれたのは、本館から十分距離がある、独立した離れの部屋だった。

 入り口から入ってすぐの場所に広い和室があり、杉でできた重厚なテーブルや年代物の和風家具が置かれている。その奥には洋風にデザインされた広いベッドルームも見えた。


「このお部屋は窓からの景色もなかなかなんですよ」

 女将さんに言われて、智明さんと共に窓辺に立つ。

 眼下には、苔むした石が転がり、その先には清流が流れている。

「あ、魚が泳いでいる!」

 何の魚だろう? 群れを成した小さな魚たちが、流れに逆らってここよりもさらに上流を目指して、必死に泳いでいる。

 そしてその対岸には、上へ上へとまっすぐに伸びた若竹が群生していた。


「……本当に、夢みたいに素敵」


 思わずそう呟いた私を見て、智明さんと女将さんが視線を合わせ嬉しそうな顔で互いに頷き合った。


「こちらのお部屋には切り石でできた内湯の他に露天風呂や岩盤浴もございます。お時間を気にせずにお使いになれますので、どうぞごゆっくり。何かございましたらお電話でお呼びください。それでは、私は失礼します」

「ありがとうございます」


 私と智明さんが一緒にお礼を言うと、宿に着いた時と同様、丁寧な仕草で女将さんがお辞儀をする。


 音もなくふすまが閉まり、とうとう私と智明さんは二人きりになった。


< 169 / 178 >

この作品をシェア

pagetop