イジワル御曹司様に今宵も愛でられています
「着きました。行きましょう」
「はい!」
よほど時間がないのだろう。地下の駐車場に車を停め、早足で先を行く葛城さんを必死で追いかける。
「こちらです」
エレベーターを降りて行き交う人の合間を抜け、べたべたとポスターが張られた廊下を奥へと進む。
まるで迷路のような廊下をしばらく行くと、葛城さんは『羽根木智明様』と張り紙のある部屋の前で足を止めた。
どうやらここが羽根木さんがいる楽屋らしい。葛城さんがコンコンと控えめにドアをノックするのを息を詰めて見つめた。
「はい」
ドアの向こうから聞こえてきた声に、無意識に体がビクッと反応する。
父が倒れてから、毎日のように電話越しに聞いていた羽根木さんの声だ。聞き慣れていた声よりも少し硬い気がして、緊張が増す。
「葛城です。藤沢さまをお連れしました」
「……入ってもらって」
「失礼します。さ、藤沢様」
「はい。……失礼します」