イジワル御曹司様に今宵も愛でられています

「どうかされました?」

『結月ちゃん、落ち着いて聞いてくれるかな』

「……なんでしょう?」

 白井さんのいつもより少し上ずった声が不安を煽る。父になにかあったのだろうか。

『君のお父さんが研究室で倒れて、病院に緊急搬送された』

「……えっ?」

『俺が所用で研究室を外している間に、突然倒れたみたいなんだ』


 父が……倒れた? 突然のことに、頭の中が真っ白になる。

「今俺も病院に来てる。これから検査みたいで、詳しいことはまだわからないんだよ。結月ちゃん、今すぐこっちに来れるかな」


 白井さんの声が遠くで聞こえ、血の気が引いていくのがわかる。

 ……どうしよう。母だけでなく、父まで失ってしまったらどうしよう。


『結月ちゃん、大丈夫? しっかりするんだ!』

 不安に押しつぶされそうになっていた私を、白井さんの力強い声が引き戻した。

 そうだ、私がしっかりしなくちゃ。……父にはもう、私しかいないんだから。


「は、はい。大丈夫です。すぐそちらに向かいます」

 白井さんに病院の場所を聞き、私は満開の桜が舞い散る境内を駆け出した。


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