イジワル御曹司様に今宵も愛でられています

 そういえば、これまで羽根木さんは私のことを『結月ちゃん』と呼んでいたけど、仕事中は『藤沢』と名字で呼ぶようになった。

 羽根木さんも、私のことを『圭吾さんの娘さん』ではなく、『羽根木智明のアシスタント』として扱おうとしてくれているのだと思う。


 そして私は、彼のことを『お家元』と呼ぶようになった。『家元』と呼び捨てにするのではなく、こう呼んでくださいと、勤務初日に葛城さんに教えてもらったのだ。


「ちょっと休もうかな」

「お家元、こちらへどうぞ」

 すかさず松原さんが椅子を用意してくれる。

 しかし羽根木さんは松原さんの顔を見ると、一瞬嫌そうに顔をしかめた。


「千紗都、いいかげん俺のことお家元って呼ぶのやめてくれる? おまえにそう呼ばれるのむずがゆい」

「そんなこと言ったって、お家元はお家元なんだから仕方ないじゃない」

「面白がって呼んでるだけだろ。見え見えなんだよ」

「あら、バレてた?」


 あれ、羽根木さんと松原さんって知り合いなの?

 この距離感は、仕事上だけのつき合いって感じじゃないよね……。

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