イジワル御曹司様に今宵も愛でられています

「父も俺同様、いやそれ以上に幼い頃から香月流の跡取りとして、祖父に厳しく躾けられた。いずれ香月流を継ぐことを条件に、唯一大学在学中だけは華道とは関係ない好きな学問を学ぶのを許されたそうだ」

 「実は俺もそうだったんだよ」と智明さんが苦笑まじりにこぼす。確か彼は、首都圏の有名私立大学で建築学を専攻していたはずだ。

 なぜ華道の次期家元が建築を? と不思議に思っていたけれど、そういう理由があったんだ。


「なんとか研究を続けたくて大学院まで進学したけど、祖父の命令で途中で中退して、父は羽根木の家に戻ったんだ。結婚もして、後を継ぐ準備もはじめた。でもある日、突然何もかも捨てて羽根木の家を飛び出して行った」

「そんな」

 驚いて両手で口を塞ぐ私を見て、智明さんが肩を竦める。

「生まれた時から香月流を継がされることが決まっていて、がんじがらめの生活に心底嫌気がさしたんだろうね。研究への未練もあったみたいだし」

「でも、奥様は? すでに結婚されてたんですよね?」

 家庭がある人が、そんなに簡単に家を捨てられるものだろうか。

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