目覚めたら、社長と結婚してました
 その際、語学留学していた母と知り合ったという経緯もあり、ふたりとも外国、というよりフランスへの移住はそこまでハードルも高くなかったようだ。

 繊細な洋菓子と日本の和の要素を合わせて、抹茶や小豆、柚子などを使ったお菓子たちは日本ブームが後押ししたのもあって大人気らしい。

 ちなみに店名は「Le yuzu」。留学時代にお世話になった人たちの伝もあり、系列店をオープンさせる準備も進めていると話していたような。

 お父さん、お母さんは元気かな。

「なに言ってるの。あっちで新規のお店を出すのに、玲二さんには色々とお世話になったのよ」

 私は伯母を思わず二度見する。もちろん、そんな話は初耳だ。伯母はついていけない私をよそに一方的に話を続ける。

「怜二さん自身もとっても素敵で申し分ない人で。さらに妻の両親の事業にまで手を貸してくださるんだから、もうこちらとしては、あなたの結婚に口を出せることなんて感謝の言葉以外にないわよ」

 あれ、なんだろう。記憶がないから? 彼のことを伯母は褒めてくれているのに、私の胸の中は言い知れない不安にも似た気持ち悪さが覆っていく。

「柚花、あなた顔色悪いけれど大丈夫? 吐きそう?」

「私……」

 自分でも血の気が引いていくのがわかる。私は背中をベッドに預けた。

「ごめん、伯母さん。私ちょっと疲れたみたい」

「こちらこそ、頭を打っているのに悪かったわ。とにかく今はゆっくり休みなさい」

 伯母はゆっくりと椅子から腰を浮かす。私は小さく「ありがとう」と告げて迷走を続ける意識をシャットダウンするために静かに瞼を閉じた。
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