目覚めたら、社長と結婚してました
 ところが広すぎる玄関を見ても、とくになにもピンとくるものはなかった。

 お邪魔します、と言いかけて思い留まり家に上がる。廊下を進み、リビングを目の当たりにして私は唖然とした。

「……怜二さん、こんな広いところでひとりで住んでるんですか?」

「お前もいるだろ」

「でも結婚する前から住んでいらっしゃるんですよね?」

「そうだな」

 ひとりでも、ふたりでも大きな問題はまったくなさそうだ。ゆったりと取られたソファスペースに、ダイニングテーブルも合わせると数十名でホームパーティーもできそうな気がする。

 グレーとベージュを基調とした家具に白い壁紙とのバランスは絶妙で落ち着いた空間を作り出している。

 窓というよりガラス張りの壁みたい。そこから見える眺めのよさは抜群だ。

 やや薄暗くなった空を遠くに見つめる。でも掃除が大変そう。そんなことを考えていると声がかかった。

「柚花、他の部屋も案内する」

「はーい」

 ジャケットを脱いでネクタイを着崩した姿にドキリとする。それを顔には出さずに、窓に張りついていた私は怜二さんの元に駆け寄った。

 どれくらい部屋があるんだろうと思いながらも、怜二さんは丁寧に説明してくれた。

 キッチンはIH完備で広々と使える造りになっていた。収納性も抜群で家電も最新のいいものばかりだ。今日買ってきたパンはスチーム付きオーブンで明日の朝、温めて食べることにする。それが楽しみになった。
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