目覚めたら、社長と結婚してました
 たどり着いた先は外観からして高級感が伝わるタワーマンションだった。おかげで私は駐車場に車が停まっても、場違い感にシートベルトもはずせずにいた。

「降りるぞ」

「怜二さん、私は来るところを間違えたようです」

「間違えてないだろ。馬鹿なこと言ってないでさっさと行くぞ」

 渋々とシートベルトをはずし車を降りる。屋内の駐車場は十分なスペースが取られ、明るすぎない照明に照らされている車はどれも高級車だ。

 不安でどうしたって足がすくみがちになる。

「自分の家に帰るのにそんなビビらなくてもいいだろ」

「だって……」

 そこで怜二さんはなにげなく私の手を取った。おかげですぐに意識がそちらに持っていかれる。手を引かれて歩く形になり私はどうしても恥ずかしくなった。

「あの、手を……」

「夫婦が手を繋ぐくらいで、誰も気にしていないだろ」

 遅い私に痺れを切らしただけで、彼にとってはとくに意味もないのかもしれない。ずるいな。いつも私が翻弄されてばかりだ。

 エントランスもホテルのロビーと見紛うほどの立派な造りだった。コンシェルジュがいるから尚更。

 中年の落ち着いた男性に「おかえりなさいませ」と恭しく頭を下げられる。マンションに来て出迎えがある経験なんて私にはない。

 相変わらず手を繋がれたままだったけれど、やはり気にしているのは私だけみたいだった。

 上階用のエレベーターに乗り込み、増えていく数字を見ながら私の心拍数も上昇する。心の中には期待もあった。もしかしたら彼と住んでいた家を見れば、なにかを思い出せるんじゃないかって。
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