Some Day ~夢に向かって~
先輩は私のこと、どう思ってるんだろう。

私は先輩との距離が近づくことに、戸惑いながら、でもやっぱり嬉しかった。だって、先輩は私の憧れの人なんだもん。

予備校から毎回一緒に帰って、メアドもケー番も先輩の方から交換しようって言ってくれた。

でも、休み時間、群がって来る子達を追い払うでもなく、私のことを気にしてくれてるようでもない。先輩からじゃないけど、せがまれてケ-番やメアドを交換してる子は他にもいるのも知ってる。

それに先輩は、夢があるって言ってた。そしてその実現のために大学に受かりたいんだって言ってた。先輩がどこの大学を目指してるのかは知らないけど、1年間学校から離れてたハンデは決して小さくないと思う。

だとしたら、私は自分の気持ちをやっぱり抑えなきゃならない。先輩の為だけでなく、私の為にも。

授業中にそんなことを考えてる私、それって私にとっても良くないよね、そう思い至って内心苦笑いする。

フッと横を見れば、先輩が授業を聞いてる。その横顔がとっても凛々しくてまぶしく見える。私、やっぱり相当重症だな・・・。

「どうかした?」

その私の視線に気づいたのか、先輩が小声で話し掛けて来る。

「いえ、なんでもないです。」

「なんだよ、変な奴。」

慌てて答える私に、言葉とは裏腹の素敵な笑顔を向けてくる先輩。

確かに休み時間には、ほとんど話出来ないけど、こういうちょっとしたやりとりは隣の席同士ならではの特権。やっぱり席替えはイヤだなぁ。

でも終礼のSHRでは当然、席替えの話は蒸し返されるに違いない。先生、うまくはぐらかしてくれないかなぁ・・・。

6時限目の授業が終わり、先生が入って来るのを、ちょっと憂鬱な気分で待っていると、教壇に男女2人の生徒が上がった。

「ちょっとみんな聞いて下さい。このSHRの時間もらって、そろそろ来月に迫った文化祭の話をしたい。」

そうか、あの2人、文化祭の実行委員だ。文化祭か・・・すっかり忘れてた。

「私達にとって、最後の文化祭。クラスとして、何をするか、今日は決めたいと思います。」

私達3年生にとって、高校生活最後のイベントとなる文化祭。いい思い出にしたいと思うけど、受験を控えてめんどくさいと後ろ向きな人がいるのも事実。

実行委員なんて、元々みんなやりたがらないけど、今年は今までに増して決めるのが大変だった。

「やっぱり王道路線で飲食系でしょ。」

「やだよ、どうせクレ-プとか甘ったるいもん出そうってんだろ?ここはお化け屋敷しかない、最高学年の名誉にかけて、ガチの怖い奴やろうぜ。」

でも最後なんだから、やっぱり楽しんでやろうよっていうのが圧倒的多数みたい。たちまち百家争鳴、いろいろな意見が飛び出す。

「文化祭かぁ。」

クラスの白熱する議論を聞きながら、先輩がポツンとつぶやいた。

「先輩は今までは、どんなことやったんですか?」

その声につられたように私は聞いた。

「実は俺、クラスの出し物って参加したことない。」

「どうしてですか?」

「うん、野球部は文化祭の時、いつも他校との招待試合組まれてたから。」

そうだった、確かに去年も一昨年も、野球部は対外試合をしてた。

「俺らが1年の時、ウチの高校が甲子園で初出場、初優勝を果たして、すっかり有頂天になった校長の肝いりで、文化祭の目玉として、決勝で戦った相手を招待したのが始まり。みっともない試合は出来ないって、結構気合い入れさせられてたから、練習も休めなくって、結局申し訳ないけど、いつもクラスの方はパスさせてもらってたんだ。」

「そうだったんですか・・・。」

「それでなんかクラスメイトから言われることはなかったけど、正直後ろめたい気持ちはあった。それにやっぱりみんなとワイワイ騒ぎながら、出し物の準備したりしたかったよなぁ。」

そう言うと先輩は寂しそうな表情を浮かべた。

「大丈夫です、今年は出来るじゃないですか。」

「うん。去年は俺はいなかったけど、やっぱり招待試合あったみたいだし、松本達はとうとう一回も参加できないままだったんだろうから、俺は幸せかもしれない。」

「はい。」

先輩の言葉に、私は大きくうなずいた。
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