わたしと専務のナイショの話
 抱きかかえられるような体勢でのぞみが座り込むと、そのまま、顎をつかまれ、キスされる。

 のぞみを抱いたまま、耳許で京平が言ってきた。

「スムーズにキスするとようになったと思ってるだろ」

 そ、そうですね。

「そうでもないんだよ。
 今でも緊張してる。

 だから、いきなり、キスしなくなっても、お前が嫌いになったとかじゃないからな。

 きっと、逆に俺の中で盛り上がってるんだ。

 誤解されないよう、言っとくぞ」

 じゃあ、そこ、テストに出るから、線引いて、というのと変わらない口調で京平は言ってくる。

「……おやすみ」
ともう一度囁いて、京平が名残り惜しそうにキスしかけたとき、いきなり玄関のドアが開いた。

 信雄が出て来たので、京平はのぞみを突き飛ばす勢いて、自分から離す。

「あ、お父さん」
と爽やかな笑顔を作り、車から降りて挨拶していた。

 のぞみは突き飛ばされた体勢のまま、

 ……貴方、私よりお父さんの方が大事じゃないですか?

 教員のときのくせが抜けないのだろうかな、と思っていた。




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