わたしと専務のナイショの話
 



 樫山と早苗たちはまだ呑みに行くようだったが、どうしても、のぞみの父親の好印象を崩したくないらしい京平は、それには付き合わずに、のぞみを送っていくと言い出した。

 タクシーを呼ばずに、最寄りの駅まで歩く。

 ちょっと二人で歩きたいと京平が言ったからだ。

 だが、自分が言い出したくせに、京平は暗がりに来ると、何度か後ろを振り返っていた。

「御堂かと思った……」
と背の高い男が後ろを過ぎったのを見て呟く。

 いや、確かにちょっと似てましたが、よく真後ろが見えましたね。

 スナイパーですか、と思っていると、
「俺は360°見えるんだ」
と京平は言い出した。

 この間、うさぎ島で知ったのだが。

 草食動物の視界は広く、馬などは350°だが、うさぎは近視ながらも、なんと360°見えるらしい。

 ……貴方、スナイパーじゃなくて、うさぎでしたか、と思いながら、のぞみは言った。

「あの、何故、専務は、そんなに御堂さんに怯えるんですか。

 私――

 御堂さんのことを好きになるとかないですから」

 言ってしまったーっ、とのぞみは思っていた。

 自分では告白したつもりだったのだ。

 だが、京平は、
「そうか」
と言ってきただけだった。
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