彼の隣で乾杯を
「お前さ、小林主任ときちんとアレだ、あの話をしたのか?」

高橋は真剣な顔をして私の隣に座って唐突に小林主任の名前を出した。

仕事の話じゃないと理解した。あの話だ。一瞬ひるんでしまったけれど、あの頃あれだけ高橋には世話になっていたのだから話をするべきだと思う。

大きく息を吸い込むと
「話、した。あの頃のと、今の話・・・」と高橋の目を見て先日のバーでの会話を語った。


話を聞き終わっても高橋の硬い表情は変わらない。

「アレは由衣子が考えていたような不倫じゃなかったってわけか。でも、主任が由衣子の心に傷を負わせたことに変わりはないよな。・・・で、その後、由衣子はそれを聞いてどう思ったんだ?」

「どうって?」

「昔好きだった相手がずっと自分のことを好きだって言ってくれて」

「なんとも思わないって言いたいところだけど、少しは嬉しかったよ。あの頃は好きだったワケだしね」

それまで合わせていた視線をそらして窓の外の闇を見つめた。
そう、私は少し嬉しかった。小林主任がまだ私のことを考えていてくれて、私のことを好きだと言ってくれて。隣にいて欲しいなんて言葉をもらえるとは思わなかった。

「でも、全てが遅すぎたんだよ」

私は闇から高橋に視線を戻して笑顔を見せた。

「全て過去の話。もうとっくの昔に終わったこと。初めから小林主任と私にプライベートな未来はなかったんだよ」

「すっきりしたってことか?」

「すっきりしたね、うん。過去とスッパリ切れたって感じかな。私はもう罪悪感を感じなくてもいいんだよね」

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