彼の隣で乾杯を
「そんなことより、僕は佐本さんに謝らなければいけないんだ」

「イタリアの件なら私も謝ります」

早希の失踪の原因になったかもと聞いて逆上し大使館で林さんのことを突き飛ばすように柱に押し付けてしまった。

それから林さんと二人きりで話をするような機会がなかったからあの話をするのはあれ以来だ。
戻ってきた早希にあの時の事情は聞いていたから林さんに対しての怒りは今はもうない。

「僕と付き合っていた彼女の話は早希さんから聞いた?」

ゆっくりと頷いた。

「俺が不安にさせたせいでとった彼女の行動が副社長と早希さんの間を邪魔して迷惑をかけてた。早希さんがいなくなる直接の原因になったわけじゃなさそうだけど、全く関係ないわけじゃない。だから間接的に君にも迷惑かけた。すまない」

「別に、私は林さんに謝ってもらいたいなんて思ってませんでしたよ」

「いや、大使館じゃすごい剣幕だったし」

確かにあれはちょっとやりすぎだった。
高橋が止めてくれてよかった。

「まああの頃は腹も立ってましたからね、主に副社長に対してですけど」

「女性に壁ドンされたの初めてだったよ」
嫌味なくらいの笑顔で言われるとどうしたらいいのかわからなくなる。

「それよりも、林さんとその彼女って今は上手くいってるんですか。また早希たち二人が揉める原因になったら困るんですけど」

さっき林さんは”俺と付き合っていた彼女”と過去形で言っていた。
過去形ってことはもう”過去”になっているのだろうか。

「もう副社長が彼女を甘やかすことはないだろう。親戚だからといって踏み込んでもいいラインくらいわからせないと。彼女は依存心が強すぎる。今回のことで久保山の家族も彼女に対する接し方を考えてくれるようになったから早希さんの迷惑にならないよう周りも気を付けるはずだ。もちろん本人もだけど」
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