彼の隣で乾杯を
「でも、先ほどキネックス社の皆さんにご挨拶させていただいた時はいらっしゃらなかったようですけど」

「ああ、あの時彼女とキネックスの社長夫人は本橋社長にべったりとくっついていたからね」

「本橋社長ってあの」

「そう、あのモトハシの本橋社長。今国内では一番勢いのある会社だからね、取り入るのに必死って感じだったよ」

モトハシ

近頃めきめきと頭角を現している企業の名だ。
始まりはITのベンチャー企業だったはず。それが今や電力、交通にまで手を広げ、モータースポーツのスポンサーからオーナー企業へと進化し、これから食品業界にも参入するらしいと聞いている。

「彼女はこのキネックス社でどんな部署に?」

「以前は営業部にいたらしいけど、やらかしが多くて秘書課に異動して新しい部署を立ち上げたと聞いてる。そこで何をやってるのかは知らない。どちらにしてもいい噂は聞かないな」

「そうですか」

やらかしって何だろうとちょっと気にはなるけれど、高橋が紹介しなかった相手だし深くつつくことはやめにした。

「もし、彼女のことで何かあるようなら社長に相談するといいよ。キネックス相手にこちらが下手に出る必要はないさ。今回の副社長の婚約者に対する営業部長の横槍の件ではうちの副社長だけでなく社長もずいぶん気分を害していたし」

そうか、そうだよね。
知り合いの婚約者に手を出そうとするなんて状況普通じゃない。
キネックス社に比べてわが社の経営陣のまともさにホッとする。

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