彼の隣で乾杯を
私のフリーズを解いたのはポケットに入れたスマホだった。
震えるスマホを手に取ると、メッセージの相手は求めていた人だった。

『急だけど、今から急用で東京に行くことになった。もう新幹線に乗った。時間が合えば仕事の後に会いたい』

何ともまあこのタイミングで。

『今日は外回りの予定なし。そっちの用事が終わったら連絡して』

『わかった。こっちが早く終わるように祈ってて』

私に会うために祈って欲しいのかとクスリと笑ってしまった。
今夜会うことができれば、彼と会うのは3週間振りとなる。

前回顔を見たのは東京駅のホーム。
私は関西からの出張が終わって東京に戻ってきたところで高橋は東京本社での仕事を終えてS市に戻るところだった。

最終新幹線が発車するまでの間の小一時間ほどを過ごすと、彼はシンデレラのように最終に乗って長期出張先に戻っていった。

別れ際はいつも笑顔で手を振り見送っているけれど、近頃は別れた後の気持ちの落ち込みがひどい。
寂しさだけじゃなくて虚しさでいっぱいになり涙がこぼれそうになるのだ。

こんな気持ちになるとはね。

高橋がそばにいてくれる生活が当たり前だった以前の自分に説教をしたい。

高橋や早希がそばにいてくれたおかげでーーー彼らが自分を無条件で支えていてくれたおかげで今まで自分は仕事に打ち込むことができていたんだと今回早希の失踪や高橋の出張で知ることができた。
< 164 / 230 >

この作品をシェア

pagetop