彼の隣で乾杯を
あの日々は永遠に続くものではないとわかっていたつもりだったのに、実際は何もわかっていなかった。

早希は戻って来てくれたけれど、これから副社長と結婚して家庭を持ち、新しい世界に踏み出していく。
もちろん、私との友達付き合いが無くなるわけじゃないこともわかってる。
それでも、今まで通りじゃない。

気軽に誘い合って飲みに行ったり、私の部屋に泊まったりなんてできないだろう。

高橋だってそう。
彼はTHコーポレーションの御曹司なんだからいずれはTHコーポレーションに戻るのだろう。

そうしたら、私はどうすればいい?
ついていきたい?今の仕事はどうする?生活は?
でも別れて生きていける?
高橋は私との将来をどう思ってる?
何の約束もしていない私たちの関係。

今までは将来の不安から自分の生活のために仕事をしてきた。

小林主任との恋があんな形で終わってしまい、自分の両親の姿を見てきた自分は現実世界を知っていて、結婚に夢など抱いていない。
女一人でも自立して生きていくには稼げる仕事が必要だと思って頑張ってきた。

生きていく手段だった仕事が楽しくなってきたことは嬉しい誤算だけど、高橋への愛を知ってしまった今は彼のいない生活は物足りないどころか寂しさでしかない。

「おい、うどんのびてるぞ」
肩口からかけられた声にハッとする。

食べかけのままボーっとしていた私を見て小林主任が呆れたように笑っていた。
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