彼の隣で乾杯を
「そういえば、康史さんのアレ、谷口に伝えてくれたんだろ?何か言ってたか?」
「あー、アレね」
そうアレだ。
「副社長が倒れちゃうんじゃないかって周りが心配なるほど憑りつかれたように仕事してるって伝えたけど。早希は自分と副社長に何があったかってこともまだ話したくないみたいで。だから私もそれ以上言えなかった」
「それも仕方ないさ。二人の問題なんだし」
早希が実家に戻ってもうすぐ半年になる。
今早希と連絡を取り合っているのは退職の時に彼女がお世話になった神田部長と私だけらしい。
早希と高橋は直接連絡を取り合ったりはしていない。
でもつい最近、早希に高橋には私たちが連絡を取り合っているのを教えてもいいと許可があってやっと伝えることができたのだ。
「早希も嫌いになって逃げたわけじゃないって感じなのよね」
「康史さんは谷口に未練たらたらって感じに見えるよ。たまに俺に谷口から連絡ないかって聞いてくるし」
「二人の間にどんなことがあったのかしら。それに、そう!林さんよ!林さん!」
不意に思い出した。
「さっき自分の彼女のせいで勘違いしてとかなんとか言ってたの。そこんとこ詳しく聞こうと思ったのに高橋に膝カックンされて、聞けなかったじゃない」
私はテーブルに人差し指でトントンと叩き苛立ちを伝える。
「林さんの彼女?しかも康史さんの従姉妹だって?誰だ、それ」
「わからない。聞き出そうとしたらあなたに連れ出されたんだからね」
ツンっと口を尖らせると、高橋が困ったような顔をした。