彼の隣で乾杯を
「ごめんね、ホントは白ワインはお魚が合うとかこだわりあった?」
「いや、気にするなよ。美味しく飲み食いできればいいんだから。楽しそうに食ってる由衣子と一緒に食事するのがイイ」

そんな言い方と優しい表情で微笑まれたら、ちょっと勘違いするし照れてしまう。
異国で二人きりのせいか、いつも外食するときより心の距離が近いような気がする。

この間の早希との電話で「高橋のことが好きなんだよね」と彼女に指摘された。
いつからか、早希は私の気持ちに気がついていたってこと。
「色気をだして迫ってみたら?」なんて言われたけど、今さらどうやって色気をだしたらよいのやら。さっぱりわからない。

私たちはこの距離感でいたからこそ長く付き合っていられるのかもしれないと思うと、もう一歩踏み込む勇気がでない。

だからといって、高橋に彼女ができてしまったらと思うと憂うつな気持ちになる。

私が小林主任と親しかった頃、高橋にはお付き合いしている彼女がいた。その人といつ別れたのかは定かではないけど、主任とうまくいかなかった私を慰めてくれたのは早希と高橋で。
いつも飲みに付き合ってくれる高橋に「彼女に誤解されたら申し訳ない」と言ったら「そんな女いないから気にするな」と一笑に付して頭を撫でられたのが2年前。

それからも高橋から彼女ができたとは聞いていないし、私が弱っている時にはたまに私の部屋に来てくれる。
私が泥酔すると泊まってくれるけれど、私たちの関係は何だと言われたら『親しい友達』ってことかな。

私は高橋のことが好きだけど告白してはいないし、泊まってもらっても身体の関係があるわけじゃない。
高橋から見たら私は仲がいい同期の一人、もしくはほっとけない同期ってところだろう。

それからも美味しい料理とワインを堪能していたら時間がたつのはあっという間。
だんだん眠くなってくる。
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