その瞳は、嘘をつけない。
声は尻すぼみになっていったが、大体の予想はついた。
「それで、かまをかけたのか?」
「そうです。気になる人が出来たから距離を置きたいって…。」

こういった感情の縺れは部外者からみると馬鹿馬鹿しいが、実際良くある。
仕事でも嫌と言うほど見てきた。

「で、反応は?」
「分かった、別れようって。淡々と言われました。
取り乱して、引き止めてくれるかなって期待したけど。全く。」
「彼女の目は?」
「良く見えなかったんです。僕の視界は涙で歪んでいましたから。」

恐らく、彼女も泣いていただろう。
決して涙は流さずに。
そして、泣きたいのは私の方だと。

「本当に、馬鹿なことしました。僕のただの一人よがりで、実加を傷つけた。」
「だろうな。」
「知ってたんですね、僕がやったこと。」
「大体は聞いている。」
「良かった。あなたには心が開けているんですね。」

話した本人は酔った勢いの上、記憶もなくしているのだから、心が開けているとは言い難いが。
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