その瞳は、嘘をつけない。
「その通りだよ。おかげで今朝母親から連絡が来た。いい加減孫の顔が見たいって。」
「ま、ご!?その前に結婚でしょ!?」

孫という言葉に動揺してしまい、話題を逸らそうにもさらに微妙な方向へ導いてしまった感が否めない。
デートは続けてるとは言え、付き合っているわけではなく、かと言って友だちと割り切れている状態ではない私たちにとっては、かなり際どいライン。
付き合うとか結婚とか、秀くんはどう思ってるんだろう。

でも誕生日と言えば。
「ゴマ団子じゃなくてケーキ作れば良かったね。
プレゼントとか・・・何か欲しいものある?遅れちゃうけど、もし何かあれば・・・。」
「お前。」
「えっ・・・」
探るような視線を向けられる。
この眼差しを向けられると、秀くん相手に嘘はつけないな、と思い知らされる。

「嫌か?」
「嫌じゃ、ない、です。」

向かい合って座っていたところから立ち上がってテーブルをぐるっと回りこんできて、
背後から抱きしめられる。
「好きだ。」
私の首筋に顔をうずめ、やや掠れた声でささやく。
首元をかすめる吐息がくすぐったい。
「私も好き。」
体に力が入ってしまいうまく声が出せないなか、小声で返した。



お互いに勿論初めてではないけれど、
気を遣いながら、様子をうかがいながら、ゆっくりと進められていくそれはやっぱり恥ずかしくて緊張した。
その緊張は秀くんにもしっかり伝わっていたけれど、無理強いはせずに優しく包み込んでくれた。
普段通り口数は少ない秀くんだけど、言葉なんか交わさなくても気持ちを伝えあうことができることが心地よかった。
きっと秀くんは、私のことを何でもわかってくれている、そう思った。
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