もう一度、愛してくれないか

「……とにかく、そんなわけだから、豊川君の負担にならないように、伊東、面倒くさい仕事だからといって秘書室に丸投げするなよ」

おれがそう言うと、伊東は頭を掻きながら「すいません……豊川さん、ごめんな」と詫びた。

豊川は少数派(マイノリティ)だから(受験はしたらしいが全滅だったらしい)スリートップとは均等に距離をとれるし、なにより人間関係において絶妙なバランス感覚の持ち主なのだ。

潰すわけにはいかない。


その後、ヒルトンプラザを出ると、今は降っていないが梅雨時なので「タクシーで帰るだろ?」と当然のように訊いたら、二人とも「とんでもないっ!」という顔をする。

「終電前やのに、タクシーなんかで帰られへんっすよ。定期あるから無料(タダ)やのに」

「そうですよぅ、専務。そんなん、もったいないですやん」

もちろん、おれが払ってやるって言ってんのにな。

二人とも、大阪人の中ではコテコテしてなくて「シュッとした」雰囲気の北摂出身なのだが、だからこそ自分がムダだと判断した金は、たとえ他人(ひと)の金でも使いたくないらしい。

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