向日葵
翌日目を覚まし、まだ隣で寝息を立てる男を残し、あたしはホテルの一室を後にした。


あのままアイツが起きるまで居れば、今度こそあたしは確実に、血管が切れてしまうだろうから。


ホテルを背に空を仰げば、太陽は真上まで昇っていて、そこでやっと、今がお昼なのだと気がついた。


が、どうにも天気が良くて、智也の部屋に戻る気分にはなれず、フラフラと歩いているうちに、駅まで来てしまった。


このままどこか遠くの街に行くのも良いのかもなと、そう思ったのは、実家を出た日以来だろうか。


千円札を発券機に入れ、それで買える分だけの金額の切符を買い、それを手にあたしは、ちょうどのタイミングで来た電車に乗った。


さすがはお昼時だけに電車内は閑散とし、エンジの色した長椅子へと腰を降ろせば、鼻に掛かったアナウンスと共に、プシューッと空気の抜ける音。


扉が閉まれば、それは揺れながらに走り出した。


この電車の終着地点がどこかは知らないが、何もかもを忘れられる場所なら良いのになと、そんなことを思ってしまう。







窓から差し込む陽射しが嫌に気持ちが良すぎて、ウトウトとしていた頃、眠りを妨げたのは、次の停車駅を知らせるアナウンスだった。


それがひどく耳触りで、思わず眉を寄せながらに窓の外へと視線を移せば、視界を占めた景色に、思わず息を呑んでしまう。


緑が多くて、その向こうには海が広がっているのだ。


それが陽の光を浴びてキラキラと輝き、まるで、宝箱を開けた時のような気持ちになって。


あまりにも綺麗すぎて、胸の奥が焦がれてしまいそうだなと、そう思っていれば、キィッと響いたブレーキ音と共に、電車が止まった。


気付けばあたしは、そのまま何かに導かれるようにして荷物を持ち上げ、頭で考えるより早くに、それから降りていたのだ。


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