向日葵
家出したクロは相葉サンに拾われ、その妹であるサチさんと付き合い始め、そして子供が出来た。


その後サチさんは姿を消し、残された彼は相葉サンの意のままに動いている。


そうやって頭の中を整理したのだけれど、何度先ほどの言葉を反復させようとも、告げられた事実が変わることはなかった。


携帯が鳴っていたのは、あれから一体どれくらいの時間が経過してからだっただろうか。


もちろんあたしは、その通話ボタンを押すことなんて出来なかったわけだけど。


だってこんな状態で、クロと何を話せと言うのだろう。


零れ落ちた涙は散らばった札束に溶け、それへと拭われるように吸収されていく様に嫌悪を覚えた。


まるであたし自身みたいで、気持ちが悪いじゃない。



『俺には、二度もお前の縋る手を振り払うことは出来ないから。』


都合の良い時ばかりクロに助けてもらって、そのくせあたしは、逃げ出してばかりいた。


また消えることも出来ないのに、だからって顔を突き合わせて“サヨナラ”さえも言う勇気がない。


それでもあたしは、何事もなかったかのように笑うことなんて、もっと出来ないから。


とにかく早く、立ち上がろうとするのだけれど、立ち上がったあとにどうすれば良いのかなんて、まるでわかんなくて。


指の先さえも動かせず、もうどれくらい、こんな風に座ったままで居るのだろうか。








沈黙の帳の中で外を濡らし始めた雨音の響きに耳を傾けていると、刹那、ガチャリとひどく冷たい金属音に、恐る恐る顔を上げてみれば、息を切らした彼の瞳が落ちてきて。


何で帰ってきたのかなんて聞くより先に、唇を噛み締めた彼から視線を外した。



「…この状況は、何?」


なるべく冷静に、言葉を選んでいるのだろう震える声色で、だけどもあたしは体が強張るのを感じてしまって。


玄関には未だ相葉のピンカスが残されていて、おまけにこれ見よがしに置かれたままの名刺はすぐに彼の目に止まっただろう。


だけども何も答えないあたしにあからさまに舌打ちを混じらせたクロは、ドンッと壁を殴って。



「なぁ、答えろよ!」


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