向日葵
沈黙を破ったのは、ひどく戸惑ったように眉を寄せた相葉サンの言葉だった。


静かな静かな公園の中、海斗くんは大人の話に飽きたとでも言った様子で、真っ暗な砂場に駆けていく。


全員が、そこで遊び始めた少年に視線を向けた時、“あのね”と、口を開いたのはサチさんだった。



「確かにあたしは、五年前、龍司と付き合ってた。
けど、海斗は龍司の子供じゃないの。」


「サチ!」


「あたしは龍司の傷を背負っていけるほど、心の広い人間じゃなかったから。
だから、他の男に逃げたんだ。」


クロの制止の声を無視するように語られた、残酷で優しい声色。


つまりはサチさんは、海斗クンはその浮気相手との間の子供だと言いたいのだろう。



「ずっとあたし達、距離を置いてたよね。
それなのに龍司は、自分の子供って言ってくれた。
裏切ったのはあたしなのに、責めたりなんかしないでさ。」


「だって俺、サチより年下で、しかも当時ハタチだよ?
誰が考えたって俺より相応しいヤツなんかいくらでも居るし、サチが他の男になびくのも当然じゃない?」


「だったら何で、それでも父親だって言い張ったの?」


「だってサチだけが、あの頃の俺を救ってくれたから。」


ひどく切なげな瞳をしたクロが、そこに居た。


あたしがクロに救われたように、クロもまた、サチさんに救われていたということだろう。


否定しなかったのは、彼の優しさからだとうことは明らかで、じゃあ何で、あたしがこんな場所に居るのだろうかと、改めてそんなことを思ってしまう。



「…じゃあ、海斗の父親って…」


「お兄ちゃんの知らない人だよ。
だからもう、龍司を縛るのもやめてあげなよ。」


「―――ッ!」


「美弥子から、龍司に彼女が出来たって聞いたし。
あれからもう五年だし、真実を伝えたかったの。」


相葉サンは目を見開き、その瞬間に彼の指に挟まった煙草は、白灰色の煙を昇らせながら、まるで抜け落ちるように地面に転がった。


左手でこめかみを押さえるように顔を覆う仕草もまた、クロと似ていて。



「悪いのは、ホントはあたしなの。」


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