向日葵
言ってて声が震えてる自分が居たけど、でも、それが伝わらないようにと小さく拳を握り締めた。


クロの瞳はゆっくりとこちらに向くのだけれど、まるで気付かないフリを装うように、あたしが視線を合わせることはない。


すぐに逃げ腰になって話を終わらせるのはあわたしの悪い癖だけれど、でも、そうでもしなきゃ強がってられないから。



「サチの話、それだけ?」


「…そう、だけど…」


「じゃあ俺は夏希に話あるし、さっさと帰ってくれると有り難いんだけどな。」


クロの言葉に思わず肩を上げると、“あら、気付かなくてごめんなさいね”と、彼女は言って。


海斗クンを呼び戻し、二人手を繋いで真っ暗闇へと消えていく後ろ姿。


取り残されたあたしとクロの間には気まずすぎる沈黙が流れてしまい、“なぁ、夏希”と、彼が言葉を紡ぐまで、一体どれくらいの時間だっただろう。



「お前の言葉、どこからどこまでが嘘?」


「……え?」


「つか、冷静になって考えりゃ、ヨシくん潔癖なとこあるのに、夏希とヤるとか思えないし。
何よりお前、金もあのままで出ていくし。」


「…それ、は…」


「ただのキスマーク?
気持ち悪いって、あれはどこまで本心?」


「―――ッ!」


クロのひどく冷たい瞳が怖くて、足を引くように後ずされば、彼は距離を開けまいとしてこちらへと詰め寄って来て。


背中に感じた金属に恐る恐る顔を向けてみれば、滑り台に逃げ道を阻まれてしまう始末。


左右でさえ両腕を突き立てられ、思わず強く目を瞑れば、耳元に吐息が掛かり、“ごめんね”と、そんな台詞。



「自己完結させるの、夏希の悪い癖だと思うけど?」


「…だって、そんなの…」


「うん、だからこうやって謝ってるんじゃん。」


気を抜けば噛みつかれてしまいそうなほどの距離で、言葉とは裏腹な態度に、あたしは顔を逸らすことが精一杯なんだけども。


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