向日葵
「サチのこと大切だって思ってたのは事実だけど、でも、もう過去だって言ったじゃん。」


懸命にクロとの距離を取ろうとして、胸の上で傘を握り締めるも、それでどれほどの距離を取れたと言うのか。


“ホントにもう、俺のことは関係ないと思ってる?”と、そう問うてくる顔は、少しばかり悲しげで。



「…あたしっ…」


「ん?」


「…あたし、どうしたら良いのかなんてわかんないし、それにっ…」


「俺と一緒に居たいとは思わない?」


「―――ッ!」


本当に、卑怯なことを聞いてくる。


こんなあたしと一緒に居たがるクロは本気で馬鹿だと思うし、突き放すくせに、離れようと思うと必ず追いかけてくるんだから。



「…クロのくせにっ…」


“ムカつく”と言うより先に唇が奪われて、壁を作るための傘なんてその瞬間に無意味なものと化した。


きっと、逃げようと思えばいくらでも逃げられたのだと思うし、それでも動けなかったあたしは、クロよりもっと本気で馬鹿に違いない。



「少しは俺のこと信じてくれました?」


コクリとだけ頷けば、彼はどこか可笑しそうに口元だけを緩めた。


こういう顔がムカついて、だけどもいつの間にか安心してる自分が居るんだから、本当にどうしようもない。



「大っ嫌いだし。」


「大好き、って?」


「言ってないし、耳鼻科行くべきじゃない?」


「へぇ、相変わらずひどいこと言うね。」


少し不貞腐れたように頬を膨らませたあたしを、彼はケラケラと笑うばかりで。


勝てないばっかりだし、余裕ぶってて、そういうの全部悔しくなる一方なんだけど、でも、ちょっとだけ心が軽くなったのも否めない。



「帰るぞ、俺んち。」


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