向日葵
伸びてきたクロの手に身をすくめれば、その指先はあたしの頬を捕え、そっと涙が拭われた。


優しくなんてされたくないのにと、そう思って唇を噛み締めていれば、信号待ちで停車していた車は再び走り出す。



「何でイキナリ泣くかな。」


そんな風に呟きクロは、短くなった煙草を消した。


沈黙はひどく長く、そして重たく感じるばかりで、吐き出した少しの震える吐息は、そんな中に溶けるように消えていく。



「俺はお前が思ってるような男じゃねぇから。」


「男なんてみんな一緒じゃん。」


「お前が見てきたヤツラなんかと一緒にすんなよ。」


何故この人はこんな風に自信タップリで言えるのだろうと、そう思うと自嘲気味に笑うことしか出来なくて。


だってクロを信じて良い保証なんて、どこにもないのだから。



「アンタに何がわかるの?」


「何もわかんねぇよ。
でも、お前だって俺のこと何もわかってねぇじゃん。」


わかりたくもないと、そう思った。


互いを知ることが、一体何になると言うのか。


クロのことを知ったからと言って、あたしの過去も人生も、何も変わりはしないのだから。



「あたしは恋愛なんてしないから。」


もう何度、クロの前でこの台詞を言っただろう。


その度にクロは何も言わなくて、何故かあたしの胸は小さく軋むのだ。



「言い聞かせてるように聞こえるけど。
その理由、俺には教えてくれないの?」


「理由なんてないから。」


まだ少し潤んだ瞳のままに眺めた街並みはネオンがキラキラとしていて、汚いあたしとは正反対だと思わされた。


そしてまたひとつ、吐き出せないものが溜まっていくのを感じてしまう。


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