向日葵
入り慣れない喫茶店の窓際の席から外を眺めていると、前より幾分温かくなったなと、そう感じてしまう。


しっとりとしたクラシックが流れ、落ち着くと言うよりは眠くなると言う方が適切だろう。



「うっす。」


顔を向けてみれば、彼もまたどこかよそよそしいと言った様子で、あたしの向かいへと腰を降ろした。


降ろして、そして“コーヒーね”なんて店員に告げる。



「遅いよ、智也。」


「良いじゃん、いつもは俺が待たされてんだし。」


「で、何?」


智也に呼び出されたのは先ほどのことで、煙草を咥えた彼に本題に入るように促したのだが、返されたのは小さく吐き出されたため息のみ。


その間に店員が、カチャッと静かにコーヒーのカップを置いた。



「単刀直入に聞くけど。
お前、龍司さんのこと好きなの?」


「意味わかんないんだけど。」


本気で意味がわからないと感じてしまう。


この前、自分で“人の色恋の話には関わりたくない”と言っていたばかりじゃないか。



「悪いけど、もうアイツと会うこともないだろうし。
智也のお節介はたくさんだよ。」


「…あのさぁ…」


「てか、言いたいことそれだけなら、あたし帰るから。」


何か言い掛けた智也の言葉を遮ると、彼はやっぱり言葉の代わりにため息を吐き出すことしかせず、あたしは無言で立ち上がった。


あれから二日ばかりが過ぎ、折角クロとの記憶を過去のものにしようとしているのに。


なのに、智也なんかにほじくり返されたくはなくて、そのまま店を出てみれば、クラシックの音色がまるで嘘のように、通りは騒喧に満ちていた。


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