向日葵
真っ暗な部屋で、まるで耳鳴りのように頭の中をグルグルと回るのは、男女の言い争う声と、食器の割れる音。


そんな中で耳を塞いで泣いているのは、幼い頃のあたしだろう。







『お前の顔なんか見たくもない!』


『あたしだってそうよ!』


そんなやり取りを見つめながら、何故二人は別々に暮らさないのかなと、幼いながらにそんなことを思ったことだけは記憶している。


当時から二人は、お互いに愛人が居て、それを隠すこともなかったのだから。


それでも仮面夫婦を演じていて、顔を突き合わせれば毎度毎度、耳をつんざくほどの喧嘩にまで発展していたのだ。


父親は止めに入ったあたしを殴り、母親はそこら中の物を投げ、その度に食器が割れていた。


何度近所の人に通報され、警察が上がり込んで来たことか。



『頼むから、さっさと離婚して!』


『じゃあ、夏希はお前が引き取れよ?』


『約束が違うじゃない!』


『うるさい!
お前、それでも母親なのか!!』


『あなただって父親なの?!』


あぁ、あたしはいらない子なんだな、って。


じゃあ何で産んだのかな、って、そんなことを思ってしまう。


愛し合った末に子供は授かるものなのだと、大人達はそんな風に言っていたけど。


愛し合ってもいない二人の間に、じゃあ何であたしを授けたのかな。


ホントは、神様なんていないんだ。


親なんて嫌いだし、あたしは一生誰も愛さないのだと、幼いながらにそう誓った気がする。


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