騎士団長のお気に召すまま
ゆったりとしたワルツの音楽が流れる中、手を取り合って踊るとまるで目の前にいる彼だけとの空間のように感じる。

微笑みを絶やさないヘンディーは、シアンとは異なり心からの笑顔のようにアメリアには思えた。

こんな貴族社会でも純粋なものはあったと思わせてくれるその笑顔に、アメリアはすっかり心を許していた。


「それにしてもあのシアンが身を固める決意をしたとは驚きです」


ヘンディーは目を細めて「あの利己主義者と婚約という言葉は結びつきませんから」と笑う。

悪戯っぽいヘンディーの言葉にアメリアはつい笑ってしまった。


「確かにあの方は理論的に考えなさっていますね」

「やはりそうですか」


アメリアの言葉を聞いたヘンディーは憂いた笑みを浮かべた。


「あいつが貴族の使命だとかそういったものに流されるようなやつには思えません。あなたと婚約することに、何かあるのだろうな、と」


「あいつのことですからね」とヘンディーは笑う。

その笑顔を見ながら、アメリアは流石はシアンの親友だと思った。

その推理の鋭さはシアン並だ。けれど、その根本が違うのだ。


「確かにあの方なら、そう考えるでしょう。けれど、これは無に帰した話。あの方の隣に立つために、私は頑張らねばならないのです」


ヘンディーは目を微かに見開いたけど、すぐに目を細めた。たったこれだけの話で、聡明な彼にはほとんど分かってしまったようだった。


「ふうん、なるほど。そういうわけか」


ヘンディーは呆れているようだった。

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