臆病でごめんね
「この世界には、慎ましい善人ばかりが存在する訳ではありません。ミスを許された事で自分には落ち度がなかったと勘違いし、更に図に乗ってしまう人も確実にいるのです。今までの人生、幾度かそういう方に遭遇して来ました。そしてその手のタイプはすぐに見抜けるようになりました」

裏表がなく公平という評価を下す人もいるかもしれないけれど…。

「自分がずっと責任を持ってその人物の面倒を見続けるというのなら構いませんが、優しい言葉をかけて助長させるだけさせておいて後は放置、などという事をされると周りの者が迷惑を被ってしまうのです」

私はますます彼女に対しての嫌悪感が募ってしまった。


「ですので部下を指導する際は、充分にお考えの上発言するよう心がけて下さい」

「…そうか」


黙って耳を傾けていた副社長はそこでようやく返答した。


「要するに僕はこの上なく甘ちゃんで世間知らずで八方美人だということなんだね」

「いえ、そこまでは…」

「そういう所が鼻につくから、好きな人に振り向いてもらえないのかな」

まるで独り言のように紡がれたその呟きに私はドキリとした。

「普段、僕は他人のいざこざには口を挟まないようにしているのに、その人の前ではついつい格好をつけて仲裁に入ってしまったり、思いがけず二人きりになれたりしたらこの上なく浮かれてしまったりして、よっぽど鈍感じゃなければ僕の気持ちにはすぐに気付くと思うんだ。でも、頑なにスルーされているというか全力で拒まれているというか……」
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