臆病でごめんね
話の様子だと副社長はこの後ビジネス絡みの食事会があるようだ。

そして本丸さんは下まで彼をお見送りするのを兼ねて、このタイミングで退社する事にしたのだろう。

派遣同様、正社員ももう定時は過ぎている。

……っていうか、自分はそんな風に副社長と一緒に行動できるチャンスが山ほどあるのだから、私に嫉妬する必要なんかこれっぽっちもないじゃないか。


「はぁ~、だけど、ホント億劫だなー」


そんな事を考えている間にも話は続いていた。

足音は聞こえないし、声も近付いて来ないのでどうやらその場に留まって話しているようだ。


「……時間的にはまだ余裕がありますので、この機会に申し上げておきたい事があるのですが」


すると本丸さんはとても改まった口調でそう言葉を発した。


「ん?」

「副社長は他人に対して、無駄に情けをおかけになる時が多々あるように感じます」

いきなりである上に、自分の上司、しかも社長の息子に対してあまりにも生意気過ぎるその進言に聞いているこっちがぎょっとした。

「何でもかんでも寛大に対応すれば良いというものではないのではないでしょうか。むしろ、必要な場面では毅然とした態度で接した方が、後々その人の為になると思います」

本丸さんは誰に対しても分け隔てなく愛想がなく厳しい人だった。
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