臆病でごめんね
なんで？
どうして？

いつも優しく声をかけて下さったのに。

大きな愛で包んで下さっていたのに。

何故そんな風に、急に冷たくなったの？


そこで突然『ああそうか』と合点がいく。

本丸さんがいるからだ。

彼女はこの前偉そうに部下への指導方法について副社長に意見していた。

それが頭にあるから、彼女の手前、私に厳しい態度を取らざるを得なくなっちゃったんだ。


「……ひとまず戻りませんか？」


私がそんな事を考えている間に、副社長に見つめられていた本丸さんはスッと視線を反らし、言葉を発した。


「もうとっくに午後の始業時間は過ぎてますし」

「…そうだね」


副社長は頷くと、先に動き出した本丸さんに続いて自分も足を踏み出した。


「今後はくれぐれも気を付けて下さいね」


そして私の傍らを通り抜ける際、冷たい口調でそう吐き捨てる。

その瞬間、心の奥底から急激に込み上げて来るものがあった。

あの女のせいで…。

今までに抱いた事のない激しい感情。

何故私達の邪魔をするのよ。

副社長は私に話しかけたくてもなかなか話しかけられない立場なんだから。

そのチャンスを潰すような事しないでよ。
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表紙・目次

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