伯爵令妹の恋は憂鬱


フリードは顔を上げ、全員を見回した。彼の視線に引き寄せられるようにみんながフリードに目を引かれる。


「この件に関してはそれぞれ個別に確認したいことがある。呼ぶ順番に執務室へ来てくれ。まずはミフェル殿だ。行こう、ディルク」


ディルクとミフェルを連れ、広間を後にする。何となく目が離せず、マルティナはその背中をずっと見ていた。

マルティナは気が気ではなかった。フリードはミフェルのことを案外気に入っているようだし、子爵家の次男という立場は、格が落ちるとはいえ伯爵家の娘の嫁ぎ先としては悪くはない。
もちろんマルティナが嫌だと言えば、フリードは無理強いはしないだろう。だが、いつまでも伯爵家のお荷物でいてもいいのかと思えばそれもよくはない気がする。思考の迷路にはまってしまったような感覚だ。

無意識にトマスの服を強く握っていたようだ。手を重ねられて、マルティナは初めてそれに気づく。


「あ、ごめんなさい。つい」

「いえ。……大丈夫ですか?」


ほほ笑むトマスの声は優しい。いつだってマルティナのことを気遣い、心配してくれる。だけどそれは恋愛感情でじゃない。仕事だからだ。
マルティナは泣きたくなってきた。

ずっとトマスに傍にいてほしい。だから子供のままでいいと思っていた。
だけど時がたつのは止められないのだ。
今回やり過ごせたとしても、毎年結婚への打診はあるだろう。トマスはその弊害になっているのが自分だと気づいたら、きっといなくなってしまう。
どうやったって、このままでは居られないのだ。

どうすればトマスと一緒にいられるのか、どう変わればいいのか。
このままでダメなことはわかるのに、マルティナには一つもいい解決案が思いつかない。

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