伯爵令妹の恋は憂鬱


『だが、トマス』

『もし。数年たって私がマルティナ様を迎えにきたときに、彼女が結婚せずひとりだったなら、その時に、求婚する許可をください』


最初に問いかけたときに見せた戸惑いは、一瞬でどこかに消え去り、最後には覚悟さえ感じさせた。
その覚悟を見ただけでフリードは満足だったが、トマスはそうであればすぐに、と意気込んでいた。


『まあそう焦るなよ。マルティナにだって心の準備が……』

『でも時間がありません。早く結果を出したいんです』


急に乗り気になったトマスに、フリードは眉を寄せる。


『何を焦ってる?』

『マルティナ様がミフェル様にほだされる前に、迎えに来たいんです。正直、不愉快なんですよ。心底大切に思っているわけでもないくせに、家柄がいいってだけで、マルティナ様を振り回して。俺が止めようとしても、全然話なんて聞いてくれない。従者なんて立場は、彼にとっては人間じゃないんです。俺、……歯がゆかったんです。俺のほうが、大切に思っているのに。だから、彼に負けないだけの権力が欲しいんです』


権力が欲しい、などと、このお人よしの青年から聞くとは思わなかったフリードは目を剥く。だが、その決意こそ、フリードがマルティナを任せる男に持ってほしいと思っていた気持ちだ。


『だったらマルティナと約束をしていけばいいだろう。格好つけてないで』

『嫌です。……言いたくありませんよ、そんな嫉妬じみたこと。……十も年上だっていうのに大人げなくて』


顔を赤く染めた、普段見ることのないトマスに、フリードとディルクは顔を見合わせ、頷きあった。

どうやらフリードが思っていた以上に、トマスはマルティナにちゃんと恋愛感情を抱いている。
だとすれば、好きなようにやらせてみようと結論付けた。

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