伯爵令妹の恋は憂鬱


「マルティナってば。散歩しないかい? きれいな花が咲いているよ」

「ごめんなさい。放っておいてください」

しかし、かわいい声の令嬢は、姿さえ見せてくれない。

歌ってくれないならせめて笑ってほしい。だけどそれも、願ってもきっとかなわないだろう。ミフェルは、おとなしい子に優しくする方法を知らない。歯に衣着せぬ言葉をものともしなかったリタやフリードとは親しくなれても、マルティナのような娘にどうすれば嫌がられないのかわからないのだ。

人と係ることから逃げてきたツケは、振り向かせたい人ができたときにやってきた。

どうすればマルティナが心を開いてくれるのか、ミフェルにはわからない。
あの、大型犬のような従者にできて、どうして子爵子息の自分にできないのか、わからないから余計悔しい。それはやがていら立ちに転じていく。


「マルティナってば! 出て来いよ」

「やっ、嫌ですっ」


優しくなだめても、厳しく叱ってもダメ。
手に入らないことで余計、執着が増す。今や別荘などどうでもいい。マルティナをこの手にしたい。


「ミフェル様、どいてくださる?」


そこにやってきたのはエミーリアだ。生後一ヵ月の娘に手を焼いていて、あまり顔を見せない伯爵夫人の登場に、ミフェルは思わず口をつぐんだ。
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