伯爵令妹の恋は憂鬱


「これは、伯爵夫人」

「マルティナに話がありますの。外していただけます?」

「は、はあ」


ミフェルが一歩下がったところで、エミーリアは扉を軽くノックする。


「マルティナ。私よ、エミーリア。開けてちょうだい」

「……お姉さま?」

「泣いてる場合じゃないわ。あなたの人生がかかってるのよ?」


大げさなエミーリアの発言に、マルティナはおそるおそる扉を開ける。
泣きはらした瞳が赤く染まっている。エミーリアはため息をつくと、夫から聞き出した朗報を彼女に伝える。


「……トマスの居場所が分かったわ」

「えっ? 何処ですか?」

「灯台下暗しだったわ。ディルクの屋敷よ。そこで、新しく立ち上げた会社を軌道に乗せるために動いてるそうよ」

「会社?」

「そうよ。あなたに求婚するためには、トマスは何らかの肩書を持たなきゃならないでしょう? そのために、彼はあなたの傍から離れたのよ」

「……求婚?」


マルティナは目をぱちくりとした。そんな別れ方があるなんて、考えもしなかったから。


「嘘、……だってトマスはお暇をいただくって私に言いました」

「お暇、でしょ? お別れって言ってないんでしょ? トマスはいずれ戻ってくるつもりなのよ」

「本当?」


マルティナの瞳にぶわっと涙が浮かぶ。ミフェルはまた大泣きするのかとぎょっとしたが、それより先にエミーリアが叱咤した。

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