伯爵令妹の恋は憂鬱
涙の痕をぬぐうように、頬にキス。バターの香りに上書きするように、手首をゆっくりなめていく。
マルティナはまるで自分が食べ物になった気持ちになりながら、彼の愛撫に素直に反応し、鳴いた。
愛されるのが嬉しいのだと、彼にわかってもらえるように。
甘く、声を響かせて。
……そして、夜が明けかけ空が白むころに、トマスはマルティナを腕の中に抱きしめて、「ゆっくりおやすみ」と囁く。
すでに疲れ切って半分眠っているようなマルティナは、無意識に彼の胸に頬をすり寄せ、直ぐに眠りへとついた。
朝になり、食卓の準備をしていたマーヤは、疲れた様子ながらはつらつとした笑顔を見せる主人を迎える。
「マーヤ、マルティナは疲れているようだから、今日は起こさないでやってくれ。食事はスープを用意してやってくれるかな」
「はい」
「あと、今日も早く帰るから。マルティナには無理をしないようにと伝えて」
「かしこまりました、旦那様」
マーヤは返事し、機嫌よく出勤していく主人を見送ってから、さてどうやって「見送れなかった」と嘆くであろう奥方を慰めようかと苦笑した。
【Fin.】


