伯爵令妹の恋は憂鬱
*
朝食の席に行くと、すでにディルクが腰掛けていた。カスパーはまずマルティナのために椅子を引き、続いてローゼにも同じ動作をする。
クレムラートの屋敷では使用人のような所作で、常にフリードの影のように行動するディルクも、ここではフリードの代理でありドーレ男爵という“客人”だ。
マルティナには少しだけ不思議な感じがしてしまう。
「……トマスは?」
マルティナが尋ねると、カスパーは不思議そうな顔をして答える。
「トマスはすでに仕事をしております。なにか御用があるなら、あとから行くように伝えておきますが」
「いえ、あの朝食は……どうしたのかしら」
「食事ならもう済ませております。使用人は厨房の隣の食堂でいただくことになっておりますので」
マルティナは目をぱちくりとさせた。
クレムラートの本邸では、トマスは常にマルティナといる。食事のときも傍についていて、フリードもあまりこだわらないので時には一緒に食べるときもある。
けれど、この別荘では使用人との間にはしっかり線引きをするようだ。
「……そう」
目の前の皿に向き直り、ディルクたちとともに祈りの言葉をささげてから食事を始める。
素材もよくおいしいのだろうけれど、気持ちが沈んでいるせいか、味はよくわからなかった。