伯爵令妹の恋は憂鬱



 朝食の席に行くと、すでにディルクが腰掛けていた。カスパーはまずマルティナのために椅子を引き、続いてローゼにも同じ動作をする。

クレムラートの屋敷では使用人のような所作で、常にフリードの影のように行動するディルクも、ここではフリードの代理でありドーレ男爵という“客人”だ。
マルティナには少しだけ不思議な感じがしてしまう。


「……トマスは?」


マルティナが尋ねると、カスパーは不思議そうな顔をして答える。


「トマスはすでに仕事をしております。なにか御用があるなら、あとから行くように伝えておきますが」

「いえ、あの朝食は……どうしたのかしら」

「食事ならもう済ませております。使用人は厨房の隣の食堂でいただくことになっておりますので」


マルティナは目をぱちくりとさせた。
クレムラートの本邸では、トマスは常にマルティナといる。食事のときも傍についていて、フリードもあまりこだわらないので時には一緒に食べるときもある。

けれど、この別荘では使用人との間にはしっかり線引きをするようだ。

「……そう」

目の前の皿に向き直り、ディルクたちとともに祈りの言葉をささげてから食事を始める。
素材もよくおいしいのだろうけれど、気持ちが沈んでいるせいか、味はよくわからなかった。
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