伯爵令妹の恋は憂鬱



翌朝、マルティナはローゼに起こされて目を開けた。

「んん。トマス、もう朝?」

「まあ、マルティナ様。まさか普段、トマスさんに起こしてもらっているんですか?」

ローゼに声に、夢の中にいたマルティナは一気に覚醒する。

「わ、私、なんて言ってましたか?」

「起こしたのがトマスさんだと思っていたようですよ」

「ちが、違うんです。いや、違わないけど」

起こすのは確かにトマスだが、実際はマルティナが返事をするまで、扉の外からノックし続けるのだ。
最初に屋敷に来た十三の頃は、夜着のまま出て行ってトマスを困らせたものだが、今はそんなことはしていない。

「……人に起こされているようではダメでしょうか」

しゅん、としたまま、マルティナはちらりとローゼを見上げる。もとは農家出身のローゼは朝には強いらしく、すでに目はらんらんとしている。

「ダメではないと思いますけれど。男性を部屋に入れるのはそろそろ気を付けたほうがいいかもしれません。トマスさんとは別に侍女を付けてもらえばいいかもしれませんね」

「そんな……」

そんなのは駄目だ。エミーリアにとってのメラニーのような存在ができたら、トマスは安心してマルティナの前からいなくなってしまう。

「私から夫に言っておきましょうか?」

「だ……ダメ。私、自分で起きられるようになるから。侍女はいりません」

「……そうですか?」

ローゼの視線に含むものを感じて、マルティナの胸にさざ波が立つ。
トマスがいればいいのだ。それしか望んでいないのだ。そのためならどんないい子にもなるし、わがままも言わない。だから、トマスを奪わないで欲しい。

マルティナは慌てて起き上がり、身支度を整える。ローゼが手伝おうと申し出てくれたが、断った。
コルセットを締めないワンピースならば一人でも着れる。

意地になっているのを見て取ったローゼがそっと「マルティナ様の髪を結うのは、私楽しみにしていたので、やらせてくださいね」と言い、マルティナは恥ずかしいような泣きたいような気持になりながら頷いた。
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