略奪連鎖
 突然何を言い出すかと思えば一番聞きたくない言葉だった。

 無言で頷くことしか出来なかった。けれど予想外な言葉が私の耳に飛び込んだ。

「俺、好きだよ。神崎さんのこと」

 従業員同士の付き合いと呼ぶには逸脱していたこともあり、孝之から何らか牽制されるものだと思っていた。だから私は咄嗟に声が出なかった。

 ふっと顔が近付き、それがキスであると感じ取った瞬間、ぎりぎりのところで孝之の動きが止まった。困惑にそろりと目を上げると、

「―――やっぱり彼女ときちんとしてからにするよ」
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