navy blue〜お受験の恋〜
電話は、音楽教室からのものだった。

先週申し込んでいた乃亜のバイオリンの体験レッスンが今日の16時からで、その参加意志の最終確認だった。

一体何を見たのか、突然乃亜がバイオリンをやってみたいと言い出したのは1ヶ月前だった。
習い事は年少の頃からクラシックバレエをやっていて今はそれだけなので、もう一つ増やしてもいいような気もしていた。
けれども年長になってしまった今、胸に引っかかっていることがあり、今日の体験でバイオリンを始める決断ができるかは怪しかった。

テーブルの片隅には今朝乃亜が解いたワークの紙がクリップで纏めてまだ置いてあった。
パラパラとめくると、みちかのつけた赤い丸ばかりが目に飛び込んでくる。
ワークの束を手に持つと、みちかはクローゼットまで行き収納ケースを開けた。
中にはこれまでに乃亜が解いた大量の問題集が積み上げられている。
パサリとその上に今日の束を重ね、収納ケースの蓋を閉めた。

乃亜は何故か勉強が好きだった。

いつだったか、悟の実家へ帰る時に車の中で退屈しないよう幼児用の問題集を買い与えやっていたらとても面白かったようでそれからすっかり夢中になってしまった。
幼稚園も字を書かせたりと、わりと座学が多いのでその相乗効果もあったのかもしれない。
それにしても問題を解くことをゲームのように楽しんで夢中になるので、親子の時間にもなるしとみちかは色々な問題集を探しては買ってきて乃亜に解かせていた。
強制したことは一度もなくて、朝もワークが無いとガッカリしてしまうので、いつのまにか朝の勉強も日課になってしまった感じだった。
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