青春カラス
毎日教室で彼をこっそり見つめることができなくなって寂しい思いをしている最中、一緒に帰る約束をしていた彼が、待ち合わせ場所に中々現れないから探しに行くと、彼は同じクラスの女の子と教室で親しそうに話をしていた。

そのことに腹を立てて、私は黙って学校を飛び出してしまったのだった。

今もカバンの中で、彼からの着信を告げるバイブが鳴り続けているけれど、私はそれを一切無視している。

「それで、あなたはその彼女と仲直りできたの?」

『いや。別れた後に、僕は車にはねられて、結局彼女に謝ることもできずこの世を去ってしまったんだ』

「そんな……!」

『未練が残っているからだろうね。こうやって生まれ変わっても僕は、このことだけは覚えているんだよ。自分がどんな人間だったのかも、彼女の顔すらも思い出せないのに、この季節にケンカをしたまま死んでしまったという事実だけを覚えている』

そうやってカラスは目を伏せた。

その姿は本当に辛そうで、思わず泣きそうになってしまっていると、カラスがクスリ、と笑った。

『君が気に病むことはない。そうだな、僕が君に言えることといえば、僕と同じような後悔はしないように生きてほしいということかな』

「……実は私も、さっき彼とケンカをして、というか私が一方的に怒って逃げ出してきたんです」

『それは大変だ。早く話し合ったほうがいい』

「うん。あなたの話を聞いて、私もそう思いました。人生何が起こるかわからないもん。私も、彼とこのまま別れるようなことがあれば、絶対後悔する」

私の言葉を聞いて、カラスは満足そうに羽根をヒラヒラとさせた。

『きっと君たちは大丈夫だよ。ほら、向こうから走ってくるのは君の彼じゃないかい?』

立ち上がって振り向くと、確かにこっちに向かって彼が走ってくるのが見えた。

私はもう一度カラスの方を振り返る。

「あなたと話ができてよかった。ちゃんと彼と話すことができそうです」

『こっちも楽しい時間が過ごせたよ。ありがとう』

バサバサ、と大きな音を立ててカラスが飛び立ったのと、私の名前を彼が大きく呼んだのはほぼ同時だった。

草むらから出て、土手の道で彼を向き合うと、開口一番、彼の不機嫌そうな声が聞こえてきた。

「今の、誰?」

彼の問いかけに、思わず首を傾げる。

この土手に、人はいないはずだけど……。
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