この世界にきみさえいれば、それでよかった。



――真広(まひろ)

ヒロのようにまっすぐにと、真広。

みんなで考えた、愛しかない名前。



「さて、このあとみんなで美味しいものでも食べにいこうよ!奏介のおごりで」

「いつもおごってますよ、俺」


ヒロが残してくれた大切な人たちとの繋がり。だから私はもうひとりじゃないし、弱さも隠さないでいられる。


私は海風を感じながら、空を見上げた。


私がこれから大人になって、たくさんの言葉を覚えて、果てしない未来を生きたとしても、ヒロからもらった宝物は永遠に色褪せることはない。


眠れない夜は、まぶたの奥にきみを思い出して、人恋しくなったら、きみに抱きしめられたことを思い出して。

寂しくなったら……。


『サユ』

きみの声を思い出す。


だから、今はヒロがすごく近くに感じてる。


空を見上げて泣くこともあるけれど、ヒロのおかげで流れた涙は今日もすごく優しい。



ヒロ、見ていますか?

約束どおり下は向いてないよ。


ヒロ、天国はどんな場所ですか?

いつか私がそっちにいく時がきたら、たくさん話をしよう。


その日まで、私はちゃんと生きるからね。



「サユちゃん、行くよー」

向こうで奏介くんと美幸さんが呼んでいた。



「はーい!」

私は明るい一歩を踏み出す。


その瞬間、まるでヒロが笑ったみたいに、ふわりと心地いい風が私の背中を押した。



【涙で海ができるまで END】


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